福岡高等裁判所那覇支部 平成9年(う)38号 判決
所論は,要するに,暴力団甲川会乙川一家の構成員であるAら実行犯グループが行った原判示第一ないし第三の各犯行(以下「本件犯行」という。)は,対立抗争中の暴力団甲山会から乙川一家の構成員が襲撃されたことに対する反撃としてなされたものであるが,乙川一家の行動隊長である被告人は,反撃について消極的であり,積極的に反撃,報復行為を主張していたAら実行犯グループに対し行動隊長としての指示,命令はしておらず,援助又は協力活動を行ったに過ぎないから,Aらと共謀のうえ本件犯行を行ったものではないにもかかわらず,共謀の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
しかしながら,所論に関し原判決が説示するところは,正当としてこれを是認することができ,論旨は理由がないというべきであるが,以下若干補足する。
原判決が本件犯行に至る経緯及び被告人とAらとの共謀状況等として認定した事実のほか関係各証拠により認められる事実のうち,とりわけ被告人の本件犯行への関与の状況を示す事実として,
(1) 暴力団甲山会が,平成2年9月,同会と甲川会に分裂して以後,両者の間で互いに相手の構成員や事務所に向けてけん銃を発砲するなどの対立抗争事件が頻発していた最中の同年10月3日,甲川会乙川一家丙川組の組員Bが射殺され,続いて同月9日,乙川一家丁川組の組員Cが乙川一家本家事務所前の被告人の目の前で銃撃されて重傷を負うという事件が発生し,身内の組員が殺傷されたことにより,被告人を含む乙川一家の構成員らに激しい報復感情が沸き上がったこと,
(2) Cが銃撃された直後の同月10日ころ,甲川会本部事務所において殺気だった雰囲気の中で開催された乙川一家の一家会において,行動隊長の被告人が行動隊を組織して行動することを提案していること,
(3) 行動隊とは,暴力団同士の抗争時に,対立する暴力団組織の動向を偵察し,その襲撃を行うための組織であり,行動隊長は,その長として隊員に指示命令を出し,あるいは隊員から報告を受け,襲撃に用いるけん銃等の凶器の準備などを行うことを任務としていること,
(4) 被告人は,行動隊を組織することを提案した右一家会の翌日ころ,弟分で乙川一家の幹部であるAに対し,若頭のDから同人の弟のEを通じて入手した22口径のけん銃1丁及び実包約25発を手渡し,さらに同月15日ころ,自己が所有していた38口径のけん銃1丁及び実包5発を,その数日後,38口径のけん銃の実包7,8発をそれぞれ手渡すなどして襲撃に必要な凶器を用意し,そのうち右38口径のけん銃が本件犯行に使用されていること,
(5) その後,被告人は,原判決が争点に対する判断の項において認定しているとおり,Aあるいは乙川一家の構成員でAの指揮する行動隊の一員であるGに対し,甲山会に対する襲撃あるいは偵察について指示をしたり,同人らから報告を受けていること,
(6) 被告人は,同年11月10日ころ,甲川会本部事務所で行われた乙川一家の一家会において,集まった構成員らに対し,「俺たち一家の構成員のBとCがやられたが,何もできない。他の一家から苦情を言われている。事務所に待機せず,行動に移せ。」などと檄を飛ばし,積極的に行動しようとしないEを叱責していること,
(7) 被告人は,同年11月15日ころ,行動隊のメンバーであるA,F,Gらと飲酒した際,Aに対し,FとGを指差しながら,「こいつらにさせるのだろう。ちゃんと立派にやり遂げさせろ。」などと言い,Aが「この二人なら大丈夫です。」と言ったところ,これを聞いた被告人がF及びGの両名に対し,Aのいうことを聞くよう指示したうえ,Gから当時同棲していた女性のことが心配であると聞き,それが犯行への障害とならないよう「こっちの方で生活も全部みるから,心配しないで行って来い。」などと述べて犯行を促していること,
(8) 被告人は,本件犯行の2,3日前ころ,丙川組事務所前に駐車中の自動車内で,Aに対し,緊張した様子で何度も生唾を飲み込みながら,「苦情が出てたまらん。何とかしないといけない。乙山(甲山会内乙山一家の意味である。)が立っていても,立っていなくても,はじかないといけない。」などと言って乙山一家に対する襲撃を指示し,また,そのころポケットベルで呼び出したGに対しても「さっさとやれ。」などと犯行を促し,これを受けたAが,F及びGに対し,乙山一家別館事務所前にいる同一家の構成員を殺害するよう指示したことにより,同人らが本件犯行に及んだこと,
(9) 被告人は,本件犯行後,Gに対し,「後のことは心配するな。」と述べ,実行犯であるFとGの逃走資金として合計107万円をAに交付し,Aの逃走資金として40万円を同人に交付していること,
等の事実があり(なお,被告人の発言は,沖縄の方言でなされており,それを標準語に直して認定した。),これらを総合すると,乙川一家の行動隊長である被告人は,甲山会との対立抗争により身内の乙川一家の構成員が殺傷されたことにより,行動隊長として襲撃の実行部隊である行動隊を指揮命令し,これを実行させる立場にあることや甲川会内の他の組からの突き上げなどもあって,甲山会に対する報復として同会構成員を殺害することを決意し,けん銃や実包を調達し,これをAに交付したうえ,Aら行動隊員に指示を出し,その報告を受けるなどして殺害の機会を窺い,最終的に本件犯行の2,3日前にAに乙山一家に対する襲撃を指示し,これを受けたAの指示によりF,G及びHの間で乙山一家別館事務所前にいる者をFらの所持する被告人から交付を受けたけん銃で殺害することの合意が成立したことにより順次本件犯行についての具体的な共謀が成立したことが認められる。
所論は,被告人の関与の度合いは受動的,消極的なものであったと主張するが,立論の前提となる被告人の供述等が信用できず,前記認定の被告人の一連の行動に照らすと,受動的,消極的なものであったとは到底いえず,所論は採用できない。
2 控訴趣意中量刑不当の主張について
所論は,要するに,被告人は,前記1の事実誤認の主張のとおり,本件犯行に間接的に関与したに過ぎないうえ,被告人が暴力団員となった経緯,さしたる前科はなく,反省していること等被告人に有利な情状が認められるから,これらの事情を考慮すると,原判決が被告人を無期懲役に処したのは,A及びFらの刑と比較し不公平であり,重きに過ぎる,というのである。
そこで,検討するのに,本件犯行のうち,中心的犯行である原判示第一の殺人及び同第二の殺人未遂の各犯行は,暴力団甲山会が同会と甲川会とに分裂し,両者が連日の如く激しい対立抗争事件を繰り広げる中,被告人がその所属する甲川会乙川一家の構成員が殺傷されたことなどに対する報復として,同会構成員であるAら4名と対立する甲山会所属の構成員を射殺することを共謀し,そのうちの1名が,暴力団事務所前で工事をしていた定時制の高校生を組員と誤認して射殺し,さらに引き続き右暴力団事務所に隣接する駐車場にいた相手方暴力団員2名を射殺しようとしたが命中せず未遂に終わったという事案であるが,犯行の動機は,暴力団同士の対立抗争による報復であり,自己の面子のためには,一般市民を巻き添えにする危険性があってもこれを意に介しないという暴力団特有の独善的かつ反社会的なものであって酌量の余地は全くない。
また,その犯行態様は,事前にけん銃を用意して試射を行い,相手方構成員の動向を偵察し,殺害の機会を窺う等用意周到な計画的犯行であるうえ,飲食店や人家が密集した繁華街で,しかも夕方の人通りの多い時間帯に公道上で至近距離から殺傷能力の高いけん銃で銃弾を連続して4発発射し,そのうちの1発を高校生の頭部に命中させたというものであって,まことに凶悪かつ残虐非道な犯行といわざるを得ない。
さらに,その結果をみても,暴力団事務所の前で工事をしていただけで,暴力団抗争とは何ら関係のない高校生を死亡させ,その尊い命を奪ったというものであって,極めて重大である。殺害された被害者は,事件当時学費を稼ぐためアルバイトをしながら定時制高校に通っていた高校生であり,翌年には高校を卒業し,就職する予定であったにもかかわらず,一瞬にして命を奪われ短い生涯を終えたもので,その無念さは察するに余りがある。また,突然最愛のわが子を失った遺族の受けた衝撃,悲しみも甚大であって,その被害感情には厳しいものがあり,犯人に対し極刑を望むというその心情にも無理からぬものがある。加えて,本件が市街地の人通りの多い場所で敢行され,一般市民を巻き添えにしたということから,付近住民を震憾させ,多大な衝撃を与えたものであり,地域社会に及ぼした影響も大きい。
被告人は,行動隊長として実行部隊である行動隊の隊員を指揮し,けん銃や実包を調達するなど本件犯行の主導的立場にあったものであり,その刑事責任は,実行行為者であるFや被告人の指揮下のもとFらを指揮していたAと何ら差異はない。そのうえ,被告人は,犯行後5年間逃走していたうえ,前記のとおりAらよりも上の地位にあり,本件の主導的立場にあったにもかかわらず,自己の刑責を免れるため共謀の事実を否認するなど,本件犯行を真に反省しているかどうか疑わしいこと,さらには被告人の暴力団歴等を併せ考慮すると,右殺人及び殺人未遂の犯行のほか原判示第三の銃砲刀剣類所持等取締法違反,火薬類取締法違反の犯行を行った被告人の刑事責任は,極めて重大というべきである。
したがって,Aら共犯者が遺族に対し,これまで総額1100万円を支払い,慰籍の措置を講じていること,被告人は,自分の渡したけん銃により高校生が殺害されたこと自体については,遺族に対し申し訳ないと述べていること,被告人には,昭和48年に傷害罪により懲役刑に処せられた前科があるものの,その後は罰金前科があるに過ぎないこと,その他所論が指摘する被告人のために酌むべき情状を十分に考慮しても,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が不当に重いとはいえない。